「分水嶺」
「分水嶺」という言葉を調べてみた。「雨水が異なる水系に分かれる場所」、「物事の方向性が決まる分かれ目」とある。なるほど。厚生労働行政にとって、「昭和60年」は、「分水嶺」ではなかったか?「労働者派遣法」が公布され、「年金」においては、「基礎年金」が導入され、「女性の年金権の確立」が図られた。「女性の年金権の確立」とは、つまり、専業主婦が多かった当時、「2号被保険者の被扶養配偶者」が、「3号被保険者」になるという事。同じ収入を得ても、自営業のAさんは、「1号被保険者」として、毎月定額の年金の保険料を納付し、「国民健康保険」の保険料を支払う。会社勤めのBさんは、「2号被保険者」として、標準報酬月額の18.3%を年金保険料を、「協会けんぽ」の医療保険料を労使折半分を負担している。結婚しているCさんは、「年金」も「医療保険」も保険料を直接負担せず、配偶者が負担している建て付けになっている。Aさん、Bさん、Cさんは、同じ金額のお金を得ていても、「年金」、「医療保険」の世界では、異なる立場となる。「3号被保険者」については、昭和の時代から「不公平」という声があったが、それ以上に「女性の年金権の確立」の声が強かったのだろう。
今日、2号被保険者となる被用者年金の適用拡大が進められている。人生の後半において、年金が、2階建てになり、手厚くなることは良い事だ。一方で、未来の年金よりも、明日の賃金、手取りの増加を求める声も強い。私は「労働力不足」の視点も加え、「130万円の壁」の単純な引き上げを主張しているが、壁を引き上げる事が、直接、保険料を負担しない3号被保険者に対する「不公平感」が増大する事を危惧しているのであろう。3号のままで、枠の中で働く事も、壁を突破して2号となる事も、どちらも正しい。分水嶺のように、右に流れるも、左に流れるも、どちらも正しい話だが、物価上昇、実質賃金がマイナストレンドの今日、明日の賃金、手取りの増加のため、壁を引き上げる事を、緊急避難として訴えたい。