「ワル」
一般社会とは異なり、永田町・霞が関で「アイツは悪い奴だ!」という人物評価は、必ずしも、ネガティブな、否定的なものではない。事実、某役所の幹部を務めた人物は、「切れ者」なるが故に、「○野✕彦」という本名を文字って、「ワル野ワル彦」と呼ばれていたらしい。畏敬の念を込めて、「悪い奴!」イコール「出来る奴!」なのかもしれない。
その日は組閣の日であった。政治部記者を務める同級生から電話が入った。既に、3学年上の先輩は、放送記者を中退し、永田町に舞い降りていた。そして、入閣が予想されていた。同級生は、「A先輩が✕務大臣で入閣!」教えてくれた。電波の状態が悪いためか、声が聴き取りづらい。「まあ、記者時代に担当していたから、○務大臣というのもあるわな!」と考えたが、聴き返すと✕務大臣らしい。「えっ?」。 A先輩からは、「財政」も「税制」の話も聞いた事がないし、為替に至っては、「円高・円安でなく、円強・円弱の方がわかり易いよな!」と落語家の名前みたいな事を言っていた。✕務大臣には、内閣の命運を賭けた大きな仕事が待っていた。先輩のグループの人達は、「正しい事は、必ず理解され、理解しないのは、その政治屋が悪い!」と考えるセルフメイドな偏差値の高い優秀な人ばかりであった。時事通信社のOBが言うように、政治の世界は、「正しい事が、必ずしも通るとは限らない」世界でもある。高学歴の秀才は理解されない事を嘆き、理解しない政治家に責任転嫁をし続ける中、A先輩は、正論を吐くだけでなく、敵対するグループの「永田町の村長さん」や、「だわね」の先輩のところに根回しに通い続けたようだ。結果、A大臣は、✕務省の大きな仕事をやり遂げた。自分に有利な空気を創るために、怪しい東北弁を駆使する老練且つ老獪なA先輩は、どういう訳か、党の最高責任者より、テレビに映る姿が極立って多い。やるなぁ~! ワルい人だ。